退職給付引当金=Provision for retirement benefitsだよ。Pension liabilityやAccrued pensionとも言うよ。
この記事では英文会計初心者向けに以下を解説していきます
- 退職給付引当金とは
- 退職給付引当金のポイント
- 退職給付会計に関連する会計英語
英文会計実務や米国株投資の財務分析などに役立ててください
退職給付引当金とは
将来支払う退職給付のうち、まだ外部積立ができていない金額。
Amounts of retirement benefits to be paid in the future that have not yet been funded externally.
ついに出てきましたね退職給付引当金。
どうですか?単語だけ聞いてもイメージが難しいのではと思います。
分解して単純化しましょう。
退職給付=退職金
引当金=将来支払いが予想される見積額
要は将来支払う退職金ということ?
ざっくりその理解でOKだよ。
会社に勤務した人は退職時に会社から退職金を受け取ります。では、この退職金って一体なんなのでしょうか?
会計上は「退職金=給料の後払い」と解釈されます。なので、長く勤務した人の退職金は多く、早期に退職した人の退職金は少ない訳です。
次に会社側の立場で考えてみましょう。
退職金制度がある場合、従業員が勤務した期間に応じて将来退職金を支払う債務が発生することになります。
現金は退職時に支払われますが、実態は給料の後払いにすぎないため、会計上は従業員の勤務(サービスの使用)に応じて費用として認識します。
発生主義の考え方ですね。
発生主義の考え方については以下記事で解説していますので参考にしてください。
つまり退職給付引当金とは「勤務期間に応じて発生した、未払いの退職金」ということになります。
この退職給付引当金を算出する一連の計算を退職給付会計と呼んでいます。
退職給付引当金のポイント
退職給付引当金を理解するにはいくつかの前提の理解が必要なので、以下順番に解説していきます。
①退職給付制度と退職給付会計
退職給付引当金の話に入る前に、そもそも退職給付とは何かざっくりみていきましょう。
退職給付制度の内容と、それぞれの制度が退職給付会計の対象になるかどうか?について順番に解説していきます。
退職給付制度の概要
退職給付制度は大きく2つのものがあります。
- 退職一時金制度
→退職時にドカンと一括で支払われるもの。いわゆる一般的な退職金のイメージ。 - 企業年金制度
→退職後年金形式で毎年支払われるもの。
さらに企業年金については以下2つのパターンに分かれます。どちらも似たような言葉なのでややこしいですが、要は「確定」という言葉がどこに掛かっているのかを意識するのがポイントです。
従業員としてはどちらも退職後年金としてもらえるのですが、年金もらえるの金額の前提がそれぞれ異なります。
- 確定給付年金
→もらえる年金の金額は固定(確定は「給付」に掛かっているため) - 確定拠出年金
→もらえる年金の金額は変動(確定は「拠出」に掛かっているため)
※従業員の運用次第で年金が変動
まずは確定給付年金についてです。
確定給付年金は「年金の給付額が確定」している制度になります。年金というとこちらのイメージの方が強いかもしれません。
会社は将来の年金の支払いに備えて資産を運用してお金を準備しています。そして従業員の退職後はこの運用によって準備したお金をもとに年金を支払うわけです。
続いて確定拠出年金です。
確定拠出年金は年金の「掛金の金額が確定」している制度です。
会社が拠出した掛金を従業員本人が運用して、退職後に年金として引き出します。運用次第で年金の金額が変わるのが特徴です。
何だかたくさん制度があって混乱するよ
まずは自社の退職金制度について調べてみよう!自分事としてイメージが湧くようになるよ
退職給付会計の対象かどうか
退職給付制度の概要を理解したら、次はそれぞれの退職給付制度に対して「退職給付会計」の対象となるのか、ならないのかを整理していきます。
まずは下の図表を見てください。
退職給付制度 | 退職給付会計の対象 | 将来債務の有無 |
---|---|---|
退職一時金制度 | ○ | 債務あり (将来退職給付支払いが必要) |
確定給付年金制度 | ○ | 債務あり (将来退職給付支払いが必要) |
確定拠出年金制度 | × | 債務なし (勤務に応じて拠出のため、将来退職給付支払いは不要) |
退職給付会計の対象かどうがを考える上で重要なポイントが、「債務があるかどうか?」です。
「退職一時金」と「確定給付年金」は債務があるため、退職給付会計の対象となります。
一方「確定拠出年金」は従業員の勤務に応じて毎年掛金を拠出するだけでよく、将来退職給付を支払う債務は負っていません。
したがって確定拠出年金については退職給付会計の対象外となり、退職給付引当金の計上が不要になります。
会社は運用リスクを負う必要もなく、会計処理もシンプルなため最近は確定拠出年金を採用する会社が増えてきてますね。
②退職給付引当金の計算
ここからは退職給付会計の対象であり、退職給付引当金の計上が必要となる「退職一時金」を前提に話を進めていきます。
退職給付引当金の計算ですが、結論としては「退職給付債務と年金資産の差額」で算出されます。
まずはこの考え方だけ覚えてください。
これから「退職給付債務」と「年金資産」について解説していきます。
③退職給付債務の計算
退職給付債務とは、「現時点で発生している将来の退職給付支払い義務」のことです。
退職給付債務は2つのステップで計算されます。
- 現在発生額の算出
- 現在価値計算
「これだけじゃイメージが湧かないよ」という方もいると思うので、以下簡単な事例を使って説明します。
まずは①現在発生額の算出からです。
現在発生額とは、「将来支払う退職一時金のうち、現時点で発生していると見込まれる金額のこと」です。
退職金は給料の後払いであり、勤務期間に応じて発生するので以下の計算式で求めることができます。※期間定額の場合
現在発生額=退職給付見込額×勤務年数/全勤務年数
上記の式にあてはめると設例の現在発生額は100万円(300万円×1/3年)となります。
続いて②現在価値計算です。
退職金の支払いは将来行われますので、将来支払う100万円を現在の金額に割り引く必要があります。
設例では割引率が1%のため、2年分の割引が必要です。結果として、現在価値は98万円(100万円÷1.01÷1.01)となります。
現在価値については以下で解説しているので気になる方はご覧ください。
いかがでしたでしょうか?
退職給付債務の計算には現在価値の概念が絡むので難しい部分でもありますが、何となく計算のイメージだけ覚えておくだけで十分です。
まずは現在価値の復習から始めるよ・・
④年金資産の計算
年金資産とは、「退職金の支払いに備えて会社が外部に積み立ているお金のこと」です。
全ての会社が積み立てをしているわけではありません。積み立てをしていない会社もあり、その場合は年金資産は0となります。
こちらも簡単な設例で考えてみましょう。
こちらは比較的理解しやすいと思います。
期待運用収益率という聞き慣れない言葉が出てきていますが、要は予想利回りのことです。
会社が拠出した年金資産50万円を信託銀行が利回り2%運用してくれるため、1年後の年金資産は51万円(50万円×1.02)となります。
⑤退職給付引当金の計算結果
おつかれさまでした。ついに退職給付引当金の計算です。
退職給付引当金は「退職給付債務と年金資産の差額」で算出するとさきほど説明しましたが、これにあてはめると以下の通りになります。
退職給付引当金47万円=退職給付債務98万円−年金資産51万円
要は退職給付債務に対して、外部積み立てできていない不足分が退職給付引当金となるわけです。
仕訳としては「退職給付費用47万円/退職給付引当金47万円」です。
退職給付費用はPLの費用へ、退職給付引当金はBSの負債へ計上されます。
以上が退職給付引当金の計算方法の解説です。
いかがでしたでしょうか。
ひとつひとつ順番に分解してみていくと、意外と簡単ではないですか?
退職給付会計は苦手な方が多いですが、今回解説したイメージをもとに他の専門書などを読んでいただくとスムーズに話が入ってくるのではないかと思います。
退職給付会計に関連する会計英語
最後に退職給付会計に関連する会計単語の紹介です。
日本語 | 英語 |
---|---|
確定給付年金制度 | Defined benefit plan |
確定拠出年金制度 | Defined contribution plan |
退職給付債務 | Benefit obligation |
年金資産 | Plan assets |
退職給付費用 | Retirement benefit expenses |
退職給付引当金 | Provision for retirement benefits |
勤務費用 | Service cost |
利息費用 | Interest cost |
期待運用収益 | Expected return on plan assets |
割引率 | Discount rate |
過去勤務費用 | Past service cost |
数理計算上の差異 | Actuarial gains and losses |
以上
最後まで読んでいただきありがとうございました。
退職給付引当金は英語でなんていうの?